Sunday, October 4, 2015

2015年生態水文学実習&森林水文生態学特論 その3(おしまい)

そして、4日目。ついにプレゼンです。

ひとつめのグループのタイトルは、「ドリームシミュレーション@御手洗水 〜水供給量の要因は〜」。


ふたつめのグループは、蒸散量の比較と要因の探索」です。


それでは、ひとつめのグル―プから紹介します。






御手洗水流域の気象データ、流量データ、グラニエによる蒸散データを使って、御手洗水流域に生育するヒノキ林がスギ林だったら水資源である流出量がどのように変化するのかシミュレーションしてくれました!しかも、年間スギ林蒸散のデータは数か月分しかないので、1年間の蒸散量を出すために、飽差(VPD:空気の乾き具合のようなもの)によるモデルまで作ってくれました!遮断蒸発や辺材面積についてはデータがなかったので、既存論文を引用して計算をしてくれました。さらに、スギを間伐したら流出量がどの程度かわるかといった計算までしてくれました。すごいです。たった1日の間に、これだけのことをやってくれました!



結果は、年間降水量が1874㎜に対し、ヒノキ林の場合、蒸散量が164㎜、遮断蒸発量が350㎜、流出量が1360㎜であったのに対し、スギ蒸散量が179㎜、遮断蒸発量が350㎜、流出量が1345㎜となりました。そして、本数80%の超強度間伐を行うと、ヒノキの場合、流出量が1581㎜に増え、水資源としておよそ200㎜確保できると推定されました。


つまり、スギとヒノキといった樹種による差はあまりないけれども、間伐によりある程度は流出量(つまり水資源量)がコントロール可能かもしれない、また、蒸散量よりは遮断蒸発量が大きく、その影響を考慮しなければいけない、という結果が提示されました。

これはもちろん色んな仮定に基づいた結論です。なので、これがどの程度正しいか、あるいはどの程度適用できるのかといったことはさらなる検討が必要です。例えば、今回のスギの蒸散とVPDのモデルは、夏の期間のみに測定されたデータを利用していて、それは問題ではないかといった鋭い指摘も学生さんから出ました。その通りです。でも、ひとつの結果ではあります。素晴らしいシミュレーションを行ってくれました。

実習1日目には、樹液流速度とVPDの関係を表すグラフを書くのに何時間もかかっていたのに、その3日後には流域水収支を計算するまでになりました。すごい!とっても素晴らしいです。




さて、もうひとつのグループは、「蒸散量の比較と要因の探索」というタイトルで発表してくれました。蒸散量が何の要因によって変わるのか、といったことがテーマです。



蒸散量は、気象要因や樹種、辺材面積、DBH、葉面積、土壌水分(斜面位置など含む)によって変動することが知られています。この班は限られたデータ(スギ林、ヒノキ林、スギヒノキ混合林の3サイト)で取れたデータを駆使して、場所と樹種で蒸散量が異なるのかどうかを調べてくれました。

でも、森林というのは実験室とは異なり、様々な要因を揃えることができません。ですので、まず、立木密度を揃えた仮想林分として蒸散量の計算を行いました。そして、季節によっても蒸散量は異なるだろうということで、全てのデータが揃っている8月のデータのみ比較に利用することにしました。とっても良いアイデアです。比較は気象の影響を排除するために、蒸散量とVPDの関係式で見ていきました。よく練られた方法ですね!


この班の結論としては、場所間差はなく、樹種間差があった、とのことでした。そして、樹種間の差は辺材面積による差であると結論づけました。蒸散を樹液流速度と辺材面積にわけ、既存の研究をうまく活用した研究発表でした。素晴らしい!そうなんです、蒸散量は樹液流速度と辺材面積(水を通している導管が存在する材部分の面積)の掛け算であり、辺材面積に非常に大きな影響を受けます。蒸散量の変動は、しばしば、辺材面積の変動で説明されます。よく気づいてくれました!

ただし、今回は統計を使った結論ではないので、あくまで主観的な結論です。また、スギ・ヒノキ混合林のデータ数が非常に少なかったので、今回の結果を確かめるためにはさらなるデータが必要かもしれません。



さて、ふたつの班ともに、とっても素晴らしい、正味1日で作ったプレゼンとは思えない発表をしてくれました!発表スライドもとてもうまく作られており、どういった解析を行ったかも、理路整然と説明されていました。

参加学生のみなさんからは、とっても良い感想を頂きました。半分以上、お世辞かな。笑

・全体を通してがっつりしてたなという印象でした。その分、得るものも多かった

・さまざまなことを楽しく学ぶことができ非常に充実した実習でした。班の人など初対面の人たちとも仲良くなることができ、とても満足しています。

・修士の先輩が講義をしてくれたことは、聞いている学部生としていい刺激でしたし、また留学生と一緒に活動できたことも楽しさの一つでした。

・一つの発表に向けて学生同士が議論し協力し合い、それに対して教員も真摯に向き合い、支えてくださる、あの体験は自分自身の学習意欲や研究への熱意などを高めさせるものであり、たった四日間なのに素晴らしい経験ができたと感じている

学年も研究室も異なる人と4日間過ごせるため、自分とは異なった意見や考えに触れることができ、一つの考えにとらわれない多角的な見方ができると感じた。

・最終日にかけてはだいぶくたびれて、今はもうコリゴリという感じですが、また来年友達や後輩を誘って参加させていただきたいなと思います。

・グループワークの体験はすごく良かったと思います。グループの人から、以前知らなかった知識やスライドの作り方を学んだり、得意なことをグループワークで発揮したり、仕事分担ができて、すごく勉強になりました。

森林を勉強する人にとって、森林の水源涵養機能は基礎知識のひとつです。今回は、それをどの様に実際に調べるのか、それは量的にどのくらいなのか、といったことについて、実際に頭と手を動かして学んでもらいました。実習後に提出してもらったレポートを見る限り、みなさん、森林の水循環についてきちんと実感を持って説明できるようになったようです。

でも、ヒトは忘却の生き物なので、すぐに忘れてしまうかもしれません。忘れてしまったら、これを見て、たまにはこの4日間の内容を思い出してくれたらなあ~、と思います。

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